誠-巡る時、幕末の鐘-
「珠樹……私「奏」
奏の言葉を珠樹は優しく遮った。
その口元には笑みが浮かべられている。
「僕は嬉しいんだ」
「………え?」
珠樹は突拍子もないことを言い出した。
どこに目の前にいる人物に傷つけられて、その者に嬉しいなどと言う奴がいるのか。
奏には理解できなかった。
「僕は長い間、奏と離されて過ごしてきた」
珠樹がゆっくりと話始めた時、永倉と原田は顔を見合わせ、黙って部屋を出ていった。
それをジッと見て、奏に視線を戻した。
「こうして会えることが、話せることが、笑顔を見れることが、手をつなげることが……そして何より名前を呼んでくれることが僕の望みだった」
そう、それは引き離された時からずっと抱き続けてきた願い。
そのためならどんなことをしても構わないと思った。