誠-巡る時、幕末の鐘-
……憎かった。
鬼火の向こうで見た人間達が。
奏の隣に当たり前にいて、名前も呼ばれて、笑顔まで向けられて。
自分は会いに行きたくてもいけないのに。
彼らは自分が欲しいものを簡単に手に入れた。
……苦しかった。
幼い頃、ずっと一緒だと言った半身が、今は他の誰かといることが。
自分だけ置いていかれたみたいで。
もう二度と、こっちを見てくれない気がして。
「奏。僕はどんなことがあってももうこれから奏を一人にしない。……奏をおいて死んだりしないよ」
……だからお願い。
その涙をとめて。
拭うことはできても、とめることはできないから。
奏は涙を流していた。
ポタリポタリと涙の雫が畳に零れる。
「分かった?」
「…………………うん」
長い沈黙の後、奏はゆっくりと頷いた。
その顔には、無理に作った笑顔が貼り付けられていた。