誠-巡る時、幕末の鐘-
「決まったら連絡をくれ」
「あぁ。分かった」
鈴は手をヒラヒラと振り、また新たな患者の元へ歩を進めていった。
奏は非常に驚いていた。
紫翠相手程ではないとはいえ、あんなに敵愾心を持っていたのに。
それが嘘のように霧散している。
そもそも、彼らだけでここに来れるはずがない。
当然、内部の者から案内されたはずだ。
鬼であることを誇りにしている紫翠や鈴が人間を里に入れることなど想像もできなかった。
それが今、崩れている。
「どうしたんだ?」
藤堂が奏の顔を覗きこむ。
何でもないと笑って見せると、納得したのか何も言わなくなった。
「じゃあ、俺達帰るな」
「おぉ」
治療中の鈴が顔を上げずに声だけで返事をした。
土方達はそれぞれ色んな思いを胸に抱き、風戸の里を後にした。