誠-巡る時、幕末の鐘-

責任の取り方




奏は京の北、貴船の社を目指していた。


人気が少ない夜の参道の脇に、一人の青年が立っている。


漆黒の衣を纏って、まるで闇と一体化しているようだ。




「何かご用でしょうか?篁様」




冥府の官吏である小野篁がそこにいた。




「さして大したようではない。……自分の命を切り売りしてまで人を助けた酔狂な奴の顔を拝みに来ただけだ」




この冥官殿はいつもこうだ。


上から目線なのがどうも気に入らなかった。


だが、ミエの主ゆえに黙ってきた。




「それをするあなたの方が余程酔狂だと思いますよ。冥府も暇なのですか?」


「暇な訳がない。いつの世も妖よりも恐ろしいのが人間だからな」




かくいうこの人も元は人間だった。


ミエが元老院に引っ張ってこようとしたが、本人はさっさと冥府の官吏を続ける宣言を出してしまった。


天上天下唯我独尊傍若無人男だと、誰がこの男に対してそう形容したのか。


全くもって正解である。



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