誠-巡る時、幕末の鐘-



「まぁいい。酒ぐらいは飲んでいけ」




祭神は篁に酒をつぐように促した。




「私は……院則を犯しました故……もうどこにも帰ることは…」




奏は軽く口を引き結び、睫毛を伏せた。


その瞳には、いつもの快活さはない。




「院則か……。そのように大事なものだったか」


「あいつの普段の様子からして、そうは思えませんでしたね」




篁の言うあいつとは、ミエのことである。


ミエは確かに色々と……まぁ、院則違反ギリギリな時もあったが、重罪は犯していない。


だが、奏は三大原則のうちの一つ、人間を傷つけないというものを犯してしまった。


放っておくと死に至るような傷を人間に負わせ、さらに風戸の里を倒壊させたのだ。


厳罰が下ることは間違いない。




「これでいいんですよ。欲しかったものは、もう十分手に入りましたから」




奏はニコリと笑うと、杯を煽った。




「ならば沐浴をしてこい。この先に泉がある。それからだ」


「はい」




杯を篁に返すと、祭神に優雅に一礼し、泉の方へと歩いて行った。



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