誠-巡る時、幕末の鐘-
「本当にお許しになるんですか?」
「本人の自由だ。私は人間にも鬼にも関与はせん」
ここが神の神たる由縁だ。
下界を見てはいるが、決して関与はしない。
願いを聞き届けるにしても、それはただの気まぐれだ。
「ミエはあの者を殊の外思っておりますが」
「ミエ、か…。あれには借りがある。妙な所で作ってしまったが、借りは借りだ」
祭神は杯を篁の方へやった。
サッと新たにつがれた酒を、祭神はゆっくりと飲み干した。
「……そういえば、あの者には双子の兄がいたな」
「………」
脈絡がないことを言い始めた祭神に、篁は黙って耳を傾けた。
「あれの兄という者を間近で見てみたい。それと先日会ったあの男達もな。今すぐ連れてこい」
「承知致しました」
篁はスウッと闇に消えていった。
「面白い者が減るのはつまらぬからな……ミエよ、借りは返したぞ」
祭神は一人、酒を煽った。