誠-巡る時、幕末の鐘-
「こいつは薬を盛られたか。そこをどけ」
一人ゆっくりと歩いてきた篁が、部屋に入り、珠樹の目に両手をかざした。
そして、短く真言を唱えた。
「………」
「目が覚めたようだな」
珠樹の瞼が開き、辺りをゆっくりと見回す。
次の瞬間、ガバリと起きた。
「奏は!!?」
「お前、何か知らないのか?」
「知ってたらあんた達に聞かないよ!!」
「奏ならば貴船にいる」
篁が発した一言に、みんなが篁に注目した。
「どうやら貴船の祭神に永久の暇ごいに行ったらしい」
「永久の暇ごいって……」
「死ぬ前に、祭神の御前を辞することへの挨拶だな」
「………!!!」
みんなの頭に衝撃が走った。
「死ぬ前って……どういうことだよ!!」
「さぁな。あいつの考えは分からん。……行くのか?行かないのか?」
篁はスッと真剣な顔になった。
冥府の官吏らしく、その瞳には強い光がある。
『行くに決まってる!!』
静寂が途端になくなり、喧騒に包まれた。