誠-巡る時、幕末の鐘-
「珠樹……お願いだから「嫌だね」
これが珠樹とは思えない程、押し殺したような低い声音だった。
思わず奏は身をすくませてしまった。
「僕の前から永遠に消えることなんて絶対に許さない」
「………」
恋人同士であるならば、甘い蜜のような言葉だろう。
だが、二人は双子の兄妹。
それは単なる言葉による呪縛だった。
耳元で囁くように呟かれた言葉に、奏の体は震えが止まらない。
『奏!!!』
参道をみんなが走ってくるのが見えた。
珠樹はそれに一瞥すると、奏の腹を力一杯殴打した。
「…かはっ!!」
奏の体が崩折れるのを、珠樹が抱きかかえた。
それを見て、みんなは血相を変えた。
「何してんだよ!!」
「気絶させただけ。屯所に戻ってあげるよ」
そう言って珠樹は参道をゆっくりと下り始めた。
みんなもそれに続こうとしたが、待て、と言う声がかかった。