誠-巡る時、幕末の鐘-
自らに与えられた執務室で、眉を顰めつつ届けられた書簡に目を落とす妙齢の女が一人。
――――天宮星鈴
それが彼女の名である。
主の一人であるリュミエールから与えられた名は、星鈴本人にとって唯一無二の宝。
もちろん、本当の名――真名は別にあるものの、もう久しく使っていない。
真名を使わないのは、自分に課したある種のけじめでもある。
主家であるローゼンクロイツ・天宮家にこの身を捧げ続けるという、彼女なりの誓い。
それが、あの日、自分を拾ってくれた彼らに対する恩返しでもあると考えたからだ。
本当ならば一時たりとて離れず、お世話をしたい。
それが彼女の偽らざる本音だというのに。
そんな彼女の忠誠心を試さんとするのが、今回の命令書の内容なのだ。