誠-巡る時、幕末の鐘-
「珠樹、ごめんね」
「もう奏から謝罪の言葉は聞かないよ。何に対しての謝罪か分かったもんじゃないからね」
これでは取り付く島もない。
後ろから抱きしめるから顔も見ることができないでいる。
「珠樹……兄様。私、疲れたから眠るわ」
珠樹の手を軽くのけ、布団に横になった。
もともと寝つきが昔から良いためか、しばらくするとスゥスゥという寝息が聞こえてきた。
「………奏。兄様なんて言わないでよ」
一人、眠れぬ夜を過ごすことになった。
狂気の芽は、生まれれば消すことはできない。
奏は無意識のうちにそれを察し、一線を引いた。
珠樹は優しく奏の顔にかかる髪をどかし、額に気付かれないように唇を落とした。
静かに時は流れていった。