誠-巡る時、幕末の鐘-
言って良いことと悪いことがある
―――翌日
「……う、ん」
「奏、起きた?」
普段ならば聞こえない声にパチリと目を開き、ガバッと身を起こした。
布団の横に、珠樹が寝転がっている。
「珠樹か。驚いた」
「僕じゃなかったら誰だっていうのさ」
「いや、誰でもないけど」
「体の調子はどう?」
「ん。大丈夫」
奏は布団から抜け出し、着物を脱ぎ始めた。
「ちょっ!!何してんの!!?」
「何って着てるのが昨日のままだったから、新しいのに着替えるの」
キョトンとして言う奏に、珠樹は大きく深く溜め息をついた。
「人の気も知らないで……」
「え?」
もう奏は帯に手をかけている。
呆れたように奏を見た。
「僕は部屋の外にいるから」
「うん?」
さっさと立ち上がり、障子をストンと閉めてしまった。
だが、影が映っているので、すぐ前にいることは分かる。
「変な珠樹」
奏は昨日垣間見た珠樹の狂気をすっかり忘れていた。
忘れさせられたともいうかもしれない。