誠-巡る時、幕末の鐘-
―――夜
爺と響が家に帰り、みんなも自室に戻った頃。
奏の寝顔を黙って見ていた珠樹に障子の向こうから声がかけられた。
「もう寝てる?」
「起きてるよ。でももう奏は寝てるから静かにして」
奏が目を覚まさないのを確認すると、珠樹は唇を噛んだ。
この妹は昔から気配には敏感だが、それが親しいものだと途端に気を許してしまう。
珠樹は静かに部屋の外に出た。
「奏に何の用があって来たの?」
「奏ちゃんじゃなくて君に用があって来たんだよ。まぁ、座りなよ」
酒と杯を持った沖田が縁側に座っていた。
外は夕方からまた降り始めた雨がまだ降っている。
「僕に何の用?」
珠樹は鋭く尋ねた。
「君、奏ちゃんのこと、好きでしょ?」
まるで、甘いもの好きでしょ、と言う時と同じような感じだ。
珠樹は黙って沖田を見た。
沖田は酒の入った杯を煽っている。