誠-巡る時、幕末の鐘-
「でも奏が大事にしてるようだからね。どうせお前達みんな奏を遅かれ早かれ百年後には必ず置いて逝く」
それまで楽しみに待っとくよ、と言い残して今度こそ中に入っていった。
辺りには、雨の音だけが響いている。
「………そうだね」
そう呟いた沖田の顔は切なげな表情をしていた。
酒と杯を持って、沖田も自分の部屋に戻っていった。
「たかが人間なのに、どうして僕よりも人間を選ぶの?」
部屋に戻った珠樹も内心穏やかではなかった。
奏の髪を一房掴み、そっと口付けた。
奏は眠り続けたまま。
時折、何かを探すように手を動かし、珠樹に触れると安心したようにゆっくりと離す。
その唇は笑っているように見えた。
「奏、今はいい夢を見て」
―――幕末の梅雨の時期。
鬼の少女の風戸への長い恨みが終わった。
だが、また別の火種が蒔かれてしまった。