誠-巡る時、幕末の鐘-



「何がいいの?」


「ん〜。決めとくよ」




珠樹はニッコリと笑う。




「さて……私も、もちっと情報集めて来よっと」


「あぁ、待って。僕も行くから」


「駄目駄目。珠樹は長としての仕事があるんだから。ご褒美無しだよ?」


「え…」




珠樹は黙った。


奏はご褒美の意味は全く分かっていないだろう。




「……すぐ帰ってきてね」


「もちろん!!」




奏は愛刀を腰に差し、部屋を出ていった。


奏の気配が遠ざかると、珠樹は大きく息を吸った。




「はぁーーー」




珠樹は吸った息を全部吐き出した。


自分の想いが間違ったものだとはわかっている。


だが、だからといって誰かに渡すのは絶対に嫌だ。




「特に沖田や兄上にはね」




苦々しく言い放った。


誰も聞くことがない呟きをこぼし、また書類に向かった。



< 554 / 972 >

この作品をシェア

pagetop