誠-巡る時、幕末の鐘-
―――ある屋敷
「へぇ〜。ちょっと立ち寄ってみたら面白いことになっているわね」
「天宮……いや、雷焔殿。なんとかならないだろうか?」
奏は今、ある男から熱烈な歓迎を受けていた。
目の前には、たくさんの豪華な食事に高い酒が用意されている。
だが、奏は一切手をつけようとはしない。
「無理ね。私は人間社会に干渉できないもの」
「だが、壬生の……」
「壬生浪士組?」
男が思い出せないようだったので、答えを出してやった。
「壬生浪士組には干渉しているではないか」
「干渉?仲間でいることが干渉なの?」
奏は笑顔で返した。
「そんな狭い考えしか持てないから、狸や狐共の操り人形になるのよ」
奏の言葉は、深く男の心に刺さった。
仮にもこの男……天皇である。
「ならば、私はどうすれば……」
「……天皇というのも孤独ね。頼るべきものを見定めなければならないなんて」
奏は優雅に愛用の扇子を開く。
伽羅の匂いが風に乗って部屋を満たした。