誠-巡る時、幕末の鐘-
「そういえば、吉田はどこへ行った??」
「どこかへ身を隠したらしい。近いうちに知らせが届くだろ」
「吉田……か」
男は遠い目をした。
それを見たもう一人の男も、悲しげな笑みをもらす。
「なぁ、桂。松陰先生を殺した幕府の奴らを許しておけるはずがないよな??」
「あぁ、高杉。先生の仇は必ず討つ。そして新しい世を明けさせる」
この二人、長州の高杉と桂である。
師である松陰…吉田松陰を安政の大獄で処刑された。
「……じゃあ、俺はもう行く。行くが……」
「何だ??」
桂が立ち上がり、部屋を出ようとして立ち止まった。
まだ何か言い足りないことがあったのか。
「お前、宿屋は山程あるだろう??何故ここなんだ」
「身を隠すには敵の近くが意外と安全なんだよ」
桂が呆れたように言うのも無理はない。
ここは壬生浪士組の屯所からそう離れてはいない。
ここへ来る時も、桂は冷や汗ものだった。
「まぁ、じきに変えるつもりだ」
「ぜひそうしてくれ。俺の身がもたん」
桂は今度こそ出ていった。