誠-巡る時、幕末の鐘-
―――回想終了
「っていう訳でせっかく山南さんに甘味をもらったのに、一口も食べられなかったんです」
奏の目が泣きそうになっている。
そんなに食べたかったのか。
「雷焔君は甘いものが好きだねぇ」
「甘いものを食べると元気になれるんです。私の元気の源ですよ」
奏はとうとう俯いてしまった。
「じゃあ、これいるかい??総司にあげようと思っていたんだけど、今の君にはこれが必要そうだ」
井上の言葉に奏は顔を上げ、井上が差し出しているものを見た。
すると一瞬で笑顔に変わった。
「金平糖だ!!ありがとうございます!!」
奏の変わり様といったら、別人のようだ。
さっきまでの鬱々とした表情は微塵もない。
「本当に元気になったようだね。良かったよ」
「はい!!私、桜花と遊んできますね!!」
「夕方までには帰ってくるんだよ!!」
「は〜い!!」
井上はまるで親のように奏を送り出した。
井上は本来あまり喋る方ではないが、それでも奏と話す時はいつも笑顔になる。
今も親のような慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた。