誠-巡る時、幕末の鐘-
「鴉天狗。文の受け渡しには便利だね」
「うん」
それゆえに、奏の主であり、鷹の主であるミエにはもちろん、みんなに重宝されている。
扱われ方は悪いけれども。
「なんて書いてあるの??」
珠樹が奏の手元を覗きこんだ。
そこには達筆な字で、こう書かれていた。
<これを機に、帰還せよ>
……元老院長からの命だった。
「………」
奏はそれを無表情に眺めていた。
「……奏」
珠樹は後ろから抱きしめることしかできなかった。
元老院に属するものにとって、元老院長の命は絶対厳守。
これは院則にも定められている。
「奏、みんなには黙っててあげる。よく考えて。どうしたいか」
「………」
考えるまでもない、元老院長の命は主達の次に絶対だ。
この春まではそう思っていた。
だが、今の奏の心は揺れていた。
……少し前まで軒下に吊されていた風鈴のように。