誠-巡る時、幕末の鐘-
「奏、少し、眠ろうか」
「んっ!!」
珠樹は眠り薬と水を口に含み、奏に口移しで飲ませた。
ゆっくりと奏の瞼が下がっていった。
「奏、梅雨の時のお返しだよ」
珠樹はそう言って、崩れ落ちる奏の体を抱き留めて、布団に寝かせた。
「奏、君のせいじゃない。悪いのはみんな人間なんだ」
珠樹は奏の髪を優しく撫でた。
「人間が君を惑わすなら、人間全部いなくなってしまえばいいのにね」
呪咀にも近い言葉を、なんでもないかのように呟く。
その姿こそ、狂ってしまった鬼そのもの。
「百年後なんて待てるかなぁ??」
珠樹は妖しい笑みを浮かべ、奏の額に口付けた。
これで、さっき薬を飲ませたことは忘れている。
「奏は僕のもの。早くそれに気付いてね??」
珠樹は奏の耳元にそう呟き、部屋を出てどこかへ消えた。