誠-巡る時、幕末の鐘-



―――夕方




「すっかり遅くなってしまいましたね」


「そうだね」




辺りは夕焼けの紅に染まっていた。


屯所はもうすぐだ。


栄太は家まで送り届けて別れた。




「みなさん、怒っていらっしゃらないといいんですけど」


「怒ることなんてないよ」




奏の冷静な声音に、響は思わず足を止めてしまった。


いつもなら、慌てて屯所に走って戻るのに、今日は歩いてもいる。


何かが変だ。


でも、その何かが分からない。


奏だけじゃない。


何かが。


その答えは、屯所に戻ってから分かった。




「みなさん、遅くなってすみませんでした。すぐ食事の仕度をしますか……ら」




響は目を見開いていた。


響の見た先には、壬生浪士組の副長、新見錦の変わり果てた姿があった。


身に纏っている着物から、切腹だということは分かる。


だが、それ以上の情報を響の頭は受付けなかった。


そのまま、前のめりに気絶してしまった。



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