誠-巡る時、幕末の鐘-



「この世に絶対などというものはない。あればそこにいる土方とて武士になることはなかった」




侵入者達が全員顔を出した。


土方、山南、沖田、原田だった。




「………」


「さぁ、早く」




せかす芹沢に奏は何も言わないし、動かない。




「………」


「……奏、頼む」




奏の中で、何かが弾けとんだ。


怒りの琴線とはまた違う。


何かの細い細い糸が。


元老院の院則には抜け穴がある。


それは本人が望んだ場合の規定事項が曖昧な所だ。


第四課長の性格からして、わざと曖昧にしてあるのだろう。


……望みや願いといった人間達の死への思いを叶えるために。




「芹沢さん、私の二つ名を教えてあげます。限られた人にしか呼ぶことを許さない、私の主から頂いた至宝」


「………」




芹沢は黙って聞いている。


奏以外、誰も一言も話そうとしない。




「私の二つ名は……天宮星鈴」


「星鈴か。……いい名だ」




芹沢は奏の手を握った。


奏も懸命に握り返した。



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