誠-巡る時、幕末の鐘-
「では、星鈴、頼む。俺を楽にしてくれ。これは俺の最期の願いだ」
背中が痛くてかなわん、と芹沢は笑った。
奏もニコリと笑う。
だが、すぐに俯いた。
「……今、楽にしてあげます」
「ありがとう、奏」
ドスッ!!
芹沢が目をつぶると同時に、心臓に短刀が埋まった。
パタリ、と奏の手を握っていた芹沢の手が床に落ちる。
後に残ったのは、激しく降る雨の音だけだ。
「……芹沢さん、私ね。主達や、元老院長以外に命令されるのって大嫌いなんです。人間の思惑にはまることが大嫌い」
「………」
奏はもう聞こえていない芹沢に向かって話続けた。
誰も止めることはできない。
止めようとも……思わなかった。
「人間って卑怯なんです。ピンピンしている時は命令一つしないくせに、死の間際になって重すぎる命令を私達に残す。そして最期の最期には我儘な願いを押し通す」
堪えて堪えて堪えぬいた涙が、今やっと流れてきた。