誠-巡る時、幕末の鐘-



「残された方の気持ちを全く考えようともしない。少なくとも、ミエ様の主の天上天下唯我独尊傍若無人男やタヌキジジィのことはそう思ってました。……あなたも例に漏れなかったというわけですか」




身体が冷たい。


あれほど温かかったのに。


何故こんなに冷たくなってしまうのか。


答えは簡単だ。


もう、いないからだ。


何故いない??


答えは簡単。


私が願いを聞き届けたからだ。


ならば、言わなければ。




「芹沢さん…私は神ではありません。願いを聞き届けた暁には、対価をもらうのが決まり」




聞こえないだろうが関係ない。


これは規則だ。




「たった半年程度の思い出ではこの仕事は重過ぎますよ。あなたの命令も特別に聞くことにしましたし」




次々と流れる涙が顎をつたい、芹沢の身体に落ちていく。




涙……。


涙はどうしてしょっぱいんだろう。


あぁ、母様が昔教えてくれた。




〈もうそれ以上泣かないように、涙を流して貰った人がしょっぱくしていくのよ。ずっと泣かれるのは辛いから〉




芹沢さん……あなたのせいですか。



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