誠-巡る時、幕末の鐘-



「……おやすみなさい。疲れたでしょう??もう大丈夫だから、ゆっくり寝てください」




名前は短い呪。


あの声で呼ばれることはもう二度とない。


あの手で頭を撫でられることももう二度とない。


呼べば返事が返ることも、伸ばした手が届くことも二度とない。


人の死とは……そういうものなのだ。


だから私達長い時を生きるモノは、大切な人間をあまり作ろうとしない。


出会えば必ず別れがくる。


冥府の官吏になった男を除いて。


等しく人間に死は訪れる。


それが早いか遅いかの違いで。


ならば最初から人間を嫌えばいい。


そうすれば、別れが悲しくなくなる。


新たな門出だと素直に受けとめられる。


涙が出るのは……別れたくないから。


もう少し一緒にいたかったから。


大切な仲間だと思っているから。



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