誠-巡る時、幕末の鐘-
奏達が屯所に入った頃、小さな少年が屯所の屋根に顕れた。
大雨だというのに、まったく濡れていない。
少年の唇は真一文字に結ばれていた。
「……まこと、人間というのは分からぬ」
「その人間を気に入ってここ最近、ずっと一緒にいたんだろ??」
闇夜を切り裂いたような漆黒の衣を纏った長身の青年が少年の横に顕れた。
こちらもまた雨に濡れることはない。
「人間が気に入ったわけではない。退屈しのぎだ」
青年の方を見ずに答えた。
「あまりあれらに面倒ごとを持っていくな」
「ほう。冥府の官吏がそのようなことを言うとは」
少年は姿に似合わない嘲るような瞳で青年……小野篁を見た。
その瞳は完全に面白がっている。