誠-巡る時、幕末の鐘-



「俺はあの女の主に借りがある。それだけだ」




篁は素っ気なく返した。


言外に、生まれたばかりの新米神が何を、と視線に乗せている。




少年はニヤリと笑った。




「ローゼンクロイツ・天宮の末の姫がそなたを主とするとはな。安倍晴明も主とする辺り、その姫は変わっている」




篁はこの言葉に鼻で笑った。




「俺とあの陰陽師を一緒にするな。俺は仕事が出来たんで冥府に戻る、あんたも早く戻らないと気づかれるぞ」




篁はそう言い残すと、闇夜に消えた。




あの男は新米神と言うが、ざっと九百は過ぎた。


ちょうど篁と安倍晴明が生きた間に生まれた。


その頃から人間を高天原から見てきたが、やっぱり分からん。


元老院の者に案内を頼んで、その者の目を盗んでここにいて、観察してきた。


だが……。





「やっぱり、人間とは分からぬ」




その呟きが誰かに聞こえることはなかった。



< 634 / 972 >

この作品をシェア

pagetop