誠-巡る時、幕末の鐘-
「……っ!!」
桂が悔しそうに立ち去るのを、二人は黙って見ていた。
「奏、本当に良かったの??」
「うん。無益な殺生はしたくないしね」
この人の墓の前では。
そこには、芹沢鴨と名の彫られた墓がある。
「芹沢さん、酒ですよ。まさに浴びる程あげますね」
奏は持ってきた酒を垂直にひっくり返した。
酒が滝のように墓に流れ落ちていく。
本当に浴びるようにだ。
「芹沢さん、新撰組になりましたよ。それから楠、荒木田、御倉は間者でした」
奏がゆっくりと今まであったことを話した。
「芹沢さん、どうなるんでしょうかね??」
奏は一人、返事が返ることはない墓に向かって尋ねた。
もとより、返事が返るなんて思ってはいない。
だが、そう呟かざるを得なかった。
「でも、私がしっかり見張ってるんで心配しないでください!!」
奏は握りこぶしを天高く伸ばした。
その夜空は、奏が初めて屯所に来た日の夜空に何故か似ている気がした。