誠-巡る時、幕末の鐘-
「本当にありがとうございました。何とお礼を言ったらいいか。あの……お名前は??」
老婦人は奏の手を両手で包みこみ、柔らかな微笑を浮かべている。
「名乗る程の者ではありませんから」
「でも……何かお礼をしなければ」
奏の言葉に、老婦人は顔を曇らせてしまった。
あぁ〜弱ったな。
お礼なんて貰うつもりでやったんじゃないのに。
むしろ請求すべきは捕まえた男だし。
でももう引き渡しちゃったな。
順番しくじった。
女・子供には甘い奏は、無下にはできないでいた。
代わりに男には容赦がない。
過去に何があった、と思わず聞かないではいられない程の徹底ぶりである。