誠-巡る時、幕末の鐘-
奏達が声がした通りの方を見ると、一人の青年がこちらへ小走りでやってきた。
「仕事が長引いてしまって。……こちらの方々は??」
「ちょっとお話をしていたのよ。とても楽しかったわ」
お婆さんは奏達の方を見て、ふわりと笑った。
孫らしき、というより孫だろう青年は、かけていた眼鏡を押し上げた。
几帳面で頑固そうな青年だ。
顔は整っているし、たぶん結構女性方からの人気も高いだろう。
……と、奏は仕事柄か、とっさに人間観察をしてしまった。
その時、近くで騒ぎが起きた。
何やら怒鳴り声が聞こえる。
「ねぇ、行かなくていいんですか??」
奏は沖田の方をチロリと見た。
その目は、言葉よりも雄弁にモノを語っていた。
「いいんだよ。今日僕は非番だから」
「最近やけに非番が多くない??僕の気のせいかな??」
珠樹が皮肉気味に沖田に言った。
だが、沖田も負けてはいない。
「でも、妹の側から離れられたがらないような子供よりかは忙しいかもね」
沖田はわざと妹と子供の部分を強調して言った。
もちろん火に油だ。