誠-巡る時、幕末の鐘-



「まぁ、やっぱり。ふふ、ここであったのも何かの縁ね」




お婆さんはニコリと上品に笑った。




「昨日は祖母を助けて頂いてありがとうございました。何度も伴をつけるように言っているのですが、なかなか聞いて頂けなくて」


「ぜひそうした方がいいですね。今の世の中物騒になってきましたから」




青年が苦笑混じりに言った言葉に奏も同調した。




「私は近衛忠興(コノエ タダオキ)と申します。失礼ですが、あなた方にご兄弟が他にいらっしゃいますか??」


「何故です??」




珠樹が少し不機嫌になった。


今、珠樹の目の前で兄である彼方の話をすることはあまりよろしくない。


昔はそうではなかったが、珠樹が一方的に彼方のことを嫌っているといってもいい。



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