誠-巡る時、幕末の鐘-



「いえ、どこかで見たことがあるなと思いましたので。他意はありませんよ」




近衛家の嫡男、近衛忠興は物腰柔らかく答えた。




「兄が一人おりますよ」


「いえ、女性の方で」


「あら、それなら目の前にいらっしゃるじゃない??」




お婆さんがキョトンとして首を傾げた。




「……え??お祖母様、今なんと??」




忠興が眼鏡の奥の瞳を丸くした。


奏が女だということに気づいていなかったのだろう。




「よく分かりましたね。私が女だって」




奏もまさかお婆さんが気づいているとは思わなかったので少し驚いていた。




「女の勘ってやつかしらね??昨日も男物を着ていらしたからおかしいなと思っていたのよ」




女の勘はよく当たる。


奏は身をもって知った。



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