誠-巡る時、幕末の鐘-



「春ではないのが残念です」


「冬でも十分ですよ」




空から白く冷たいものが落ちてきた。




「あ、雪」


「本当ですね。初雪かな??」




今年初めての雪に、澪ちゃんはどんなに喜んでいるだろう。




想像したらくすりと笑みがこぼれた。




「これを着てください。風邪をひきますよ??」


「ありがとうございます」




忠興から羽織をかけられた時、狐の匂いがした。


人から匂うはずのない、狐……妖狐の匂いだ。




狐憑きか??


だが、今この邸にはいない。




「どうかしましたか??」


「いえ、なんでもありません」




考えごとをしていた奏を心配げに忠興が見ていた。


何でもないと首を振ると、安心したように笑った。




このしびれ薬はその狐か。


人間が私の正体を知るはずないし。




奏はそう結論づけてしまった。


……誤った方向へと歯車を回してしまった。



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