誠-巡る時、幕末の鐘-
「もうそろそろお暇させて頂きますね」
「もうそんな時間ですか」
「えぇ。色々と面倒なことが起きてて」
これからまた一つ増えたけど。
「そうですか。お仕事頑張ってくださいね」
「はい。では失礼します」
「お気をつけて」
忠興は奏にそう言った。
奏は振り返り、にこりと笑った。
そしてそのまま邸の門を出た。
「あ〜。狐の匂いなんて人間からするのを嗅いだのは……千年ぶりだ」
過去に一度。
平安にはこびる悪鬼怨霊を鎮めた稀代の陰陽師。
……ミエの主でもあった、安倍晴明だ。
彼は母親が葛の葉という妖狐だ。
当然彼もその血を色濃く受け継いでいた。
「……胸くそ悪い」
奏はその陰陽師が好きではなかったので思い切り悪態をついた。