誠-巡る時、幕末の鐘-



「ぎゃーぎゃー屯所の中で騒ぐな!!やっぱりおめぇらか」




土方が自室から顔を出した。




「奏、おめぇ、斎藤が探してたぞ??一緒に見回りに行くって言ってたんだろうが」


「あ、そうだった」




昨日、明日の夜の巡察についていくと斎藤に言い出したのは奏だ。


だが、すっかり忘れていた。




「奏、ここにいたのか」


「一君!!忘れてごめん!!今、用意するから」




奏は珠樹からすっと身を引き、自室に向かった。


珠樹はそれを虚ろに見ていた。




フッ




「………笑っちゃうね。あぁ、悔しいな。……いつになったら奏を返してくれるんだろうね」




珠樹は腕を組み、壁に寄りかかった。


姿形は同じでも、自分達に向ける視線は天地の差がある。


土方と斎藤を見る珠樹の目は冷めているように見えて、実は熱い激情をほとばしらせていた。



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