誠-巡る時、幕末の鐘-



―――壬生寺




珠樹は芹沢の墓の前にたたずんでいた。


じっと墓の前に置いてある花を見ている。


その花は奏が供えたものだ。




「…………出てきなよ」




珠樹は振り返らずに言った。


少し離れた場所にある木の影から沖田が現れた。




「………奏は死んだ芹沢の墓参りを欠かさずしてる。死んでもまだ大切に思われてる。あんたが言ってたのってこれ??」


「……そう。僕達はいつか奏ちゃんを置いていくけど、心の、記憶の中には残れるんだ」




数日前、奏と甘味の詰め合わせを食べた時に沖田に言われた言葉がまだ頭に残っていた。




「それずるいだろ。僕は長い間忘れられていたのに。お前達のだけ残り続けるなんて」


「ずるいのは君の方なんじゃない??」




沖田は悲しそうに笑った。


それを珠樹は睨み付けた。



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