誠-巡る時、幕末の鐘-
―――市中
珠樹は一人、夕日に染まった道を歩いていた。
夏ならばまだまだ明るいうちだが、今は冬だ。
日が沈むのが格段に早かった。
「紅い夕日か……。まがまがしいくらい紅いな」
まるで血の色を彷彿とさせる夕日の色に珠樹は嫌悪感を抱いた。
肌に染み渡る寒さもより一層不快に感じた。
「……最悪。変なとこに迷いこんだし」
今、珠樹がいるところは現実にある空間ではなかった。
何やら妖の者に妙な場に引きずり込まれたらしい。
その証拠に、人一人見かけない。
いつもならば夕暮れ時は子供達が遊びから、大人達も仕事から家路につく時間だ。
だが、賑やかになるはずの道には誰もいない。
「夕暮れ時は逢魔ケ刻。…すっかり忘れていたよ」
珠樹は自分の刀に手を伸ばした。