誠-巡る時、幕末の鐘-



「もし、どうかなさいましたか??」




背後から女の声がした。


珠樹は警戒心を全く緩めずに、そのまま振り向いた。


そこには、今の時代には珍しいつぼ装束姿の女がいた。


市女笠から垂れる麻布のせいでこちらからは相手の顔が判別できない。


かろうじて顔の輪郭などが分かるくらいだ。




「……別に??」


「本当にでございますか??」




女はすうっと目を細くした。


もちろん珠樹には見えていない。




「あなたにそっくりなお方がこちらでお待ちです」


「……あんたは??」




自分に似ているというならばそれは奏しかいない。


警戒心はそのままに相手を探ることにした。


もう相手の正体は掴んでいるが。




「私は蜜緒(ミツオ)と申します」


「蜜緒??蜜緒ねぇ。そのまんまだね、芸のない」




この女、正体は狐。


普通の尻尾が一つしかない狐ではなく、名前の通り三つ尾。


だから珠樹は芸がないと言ったのだ。



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