誠-巡る時、幕末の鐘-
「奏の心が手に入る??……鬼をなめるなよ、狐ごときが」
奏の心が手に入ったとして、それはまやかしだ。
真の心ではない。
僕が喉から手が出るくらい欲しいのは、奏の真の心だ。
たとえ手に入れたとして、その術が切れた時、誰かの元へ去っていく奏の姿なんて見たくない。
それに狐に手を借りるなんてことは絶対にしたくない。
………沖田は嫌いだ。
むしろ殺してやりたいぐらい憎い。
でも………そうすると奏が傷つく。
沖田だけじゃない。
あの中の誰でも手にかけたらたとえ僕でも恨むだろう。
仇は必ずとる。
僕は奏を傷つけたくない。
だから我慢する。
七千年近く我慢できた。
だから沖田達が死ぬまでの五十年くらい、正々堂々勝負してやる。
雷焔家当主として、誇り高い鬼として。
珠樹は辺りがいつもの風景に戻っていることに気が付き、屯所へと足を進めた。
後に、絶望という二文字を肌で感じるとは知らずに、意気揚々と。