誠-巡る時、幕末の鐘-



―――屯所




「…やっぱりいねぇか」




先程、鴉が戻ってきた。


みんなにはただ鴉が鳴いているようにしか聞こえないが、鷹には十分分かったらしい。


苦々しげにそう言った。




「奏の奴、どこほっついてやがるんだ!?」


「奏がどうかしたのか??」


「ちはや!!」




土方の叫びに質問を投げかけた者がいた。


外に出ていた千早だ。


澪ちゃんが飛び付いてきたのを多少よろめきながらも受けとめた。




「奏、また書類整理が嫌で逃げ出した……わけではなさそうだな」




ここ数日屯所から離れ、自分の社に行っていたので、千早は詳しい事情をあまりよく知らない。


なんの気なしに口から出た言葉だったが、みんなの顔が強ばっているのを見て、そうでないことをすかさず判断した。



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