誠-巡る時、幕末の鐘-
「確か鷹と別れて、良順先生に会って…」
それからの記憶がない。
ということは松本良順、いや“松本良順”という人に化けた妖に捕らえられたのだ。
奏はそういう結論にいたった。
気を失う前、松本良順からかすかに漂ってきた気配というか匂いは、普段の彼からは似ても似つかないものだった。
狐か。
注意してたんだけどな。
奏は自らの失敗を悔いた。
これでは響に注意するよう言えなくなる。
「さて、長いこといるつもりはないので…………あっれ〜??」
奏はこの場から出るために力を使おうと手の平を宙にかざした。
だが、何の反応も起きない。
「術式間違えたかな??………いやいやいや、そんな訳ないって」
思わず一人で自問自答してしまった。
………うん。
虚しいね。