誠-巡る時、幕末の鐘-
「水、お飲みになりますか??」
水瓶を持ち上げ、聞いてくる。
奏は首を左右に振った。
「何が入っているか分かりませんから」
「何も入っていませんよ。……ほら」
忠興は自ら水瓶の中の水をつぎ、飲み干した。
「人間には効かぬ薬もありますから。………何が目的か」
奏は言葉を改めた。
敵と判断した者に奏は容赦をしない。
言葉使いはそのほんの入り口だ。
「目的…ですか??」
「あぁ。裏で手を引いているのは狐だろうが、お前も一枚噛んでいるはずだ」
何しろ、その狐の憑き主なんだから。
忠興は奏の口調の変化にも言われた内容にも別段驚きはしなかった。
かけている眼鏡をくいっと押し上げただけだ。
その奥にある瞳は奏の姿をじっと映し出していた。