誠-巡る時、幕末の鐘-
「私の目的は、この世を摂関時代へ戻すことですよ」
「摂関時代へ??」
摂関時代は平安の頃、藤原道長という男が栄華を誇った時代から数十年続いた藤原家の最盛期のことだ。
「そうか。近衛家は藤原家の末裔だったな」
「えぇ、そうです」
「再びこの世で栄華を極めようと??」
「いけませんか??」
奏の問いに忠興は軽く首を傾げた。
この男は本気だ。
「武家の世はもうじき終わります。再び栄えるのは公家」
忠興はそう言って奏の元へ近づいてきた。
小さな部屋なので逃げ場はない。
ましてや奏は今、力も使えない、刀もない。
人間の女と変わりなかった。
「あなたとてご自分の家を再興なさるそうではありませんか。それと同じです」
「私のこと……知って…」
「えぇ。雷焔家の鬼の姫。そうでしょう??」
忠興は奏の頬に手を添えた。
夕日が二人を照らしだした。