誠-巡る時、幕末の鐘-
「…………」
顎をくいっと持ち上げられたが、奏は瞳をそらさずに真っ直ぐ見た。
「強い瞳の輝きですね。こんな状況になってもまだそのような目を向けられるとは」
「あいにく、やわなお姫様には育っていませんから」
奏はそう皮肉を返した。
忠興はすうっと目を細くした。
忠興の言い方からして、彼は奏が今、力を使えないことを知っているらしい。
本音を言えば危機的状況にあった。
だが、こんな男に屈する訳にはいかない。
その思いが奏の口をすべらせた。
「……そうですか。…では私は失礼しますね」
忠興は立ち上がり、部屋を出ようと扉に手をかけた。
「あぁ、そうそう」
振り返り、奏の方を見て口の端を上げた。
「その着物、よくお似合いですよ」
そう言って今度こそ部屋を後にした。