誠-巡る時、幕末の鐘-
「己の私欲のために生きるとは……哀れと言わず何とする??」
「私欲、ですか。人間はみな私欲の塊です。ただ表に出すか出さないかの差だけですよ」
奏は開き直るかのように答えた忠興に軽く口の端を上げた。
「確かにな。私には分からぬ。……分かりたくもない」
その瞳には明らかに人間に対する嫌悪が示されていた。
「おかしなことを。あなたは人間の男達と暮らしているではありませんか」
「あれらは別だ。貴様のように自分の欲のために私を利用しようとはしない。……他の人間と一緒にするな」
殺気のこもった目で射られ、僅かの間、忠興は動けずにいた。
まさしく蛇に睨まれた蛙状態だ。
しかし、何を思いついたのか、眼鏡を押し上げ、不敵に微笑んだ。
「………彼らとて本心はどうか分かりませんよ??」
「何??」
忠興は奏の両手首を片手で押さえつけ、床に押し倒した。
「何をっ!!?」
「こういう欲とてあるのでは??」
「離せ!!!」
その時、扉が勢いよく飛ばされた。