誠-巡る時、幕末の鐘-
「ここから出られずにいたっていうことはそういうことだよ。あやうく襲われかけたしね」
「あぁ、やっぱり我慢できない」
珠樹が忠興の胸ぐらを掴みあげた。
その時、ぱしっと珠樹の腕を掴んだ者がいた。
「よしなさい、珠樹」
「……………彼方兄上」
怒り狂った珠樹を止めたのは彼方だった。
後ろには忠興を殺意のこもった目で見る爺の姿もある。
久しぶりに見る二人の姿に奏は安堵のため息をこぼした。
「何で止めるのさ。こんな奴、生きる価値なんてないでしょ」
「この人間が死ねば狐への糸口が断たれる。それくらい考えなさい」
「…………」
珠樹はばっと手を離し、彼方を睨んだ。
彼方はその視線を気にすることなく忠興に相対した。
「僕の大切な妹が世話になったみたいだね。事が全てすんだら覚悟を決めてもらうよ??」
「……………」
忠興はただ黙っている。
彼方は奏の方へ足を向けた。