誠-巡る時、幕末の鐘-
「さぁて。雑魚は後に回して……。あらら、あの男、兄様に捕まっちゃってる。兄様ぁ、その男は生かしておいてくださいねぇ!!」
時雨と刃を交えている彼方は奏の声に一瞬視線を移した。
フイっと視線を戻し、肩をすくめた。
「兄様!!?」
「分かってるよ。奏は……」
大人しく待っていなさい、という言葉を奏が聞くはずがなかった。
彼方と時雨の横をすっと駆け抜け、新たに刀を赤く濡らした。
「私はねぇ、人間が嫌いだけど……裏切り者の妖も大嫌いなのよ」
奏の姿が月夜に舞った。
屋根にすとんと飛び上がり、屋根の上から弓を射かけようとしていた狐を斬る。
緋袴に白い小袖で舞うように刀を振るう姿は、昔、男装をして人々に舞いを見せた白拍子のようだった。
ただ一つ違うのは、その手に持つ刀から血が滴り落ちていることだ。