誠-巡る時、幕末の鐘-



「い、や……いやぁっ!!父様ぁ、母様ぁっ!!」




奏は半狂乱に陥った。


いるはずのない両親の姿を炎の中に見いだし、必死に手を伸ばした。


だが、当然ながら届かない。




「兄様ぁ……」




奏は彼方の姿を捜し求めた。




「奏、見つけた」


「兄様…」




現実に彼方は奏の前に顕れた。


にこりと笑って。




「奏、そこを動いては駄目だよ」


「兄様……」




ふわりと跳躍し、奏の側までやってきた。


優しく頭を撫で、奏の体を横抱きにした。


そしてまた跳躍し、部屋を出ることに成功した。


奏はその腕の中で、ある一つのことを思い出していた。




兄様、あの時も笑ってた……。




忘れていた記憶がこの炎によって蘇った。




なんで??


どうして??


兄様………。









……父様達の亡骸を見て笑ってたなんて。









奏はすうっと意識を飛ばした。


もう一度忘れたい、そう願いながら。



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