誠-巡る時、幕末の鐘-



「奏、思い出してしまったんだね」




彼方は比較的炎のまわりが遅い廊下を通った。


自らも鬼火を出し、炎を炎で相殺させていた。


だから炎が二人を襲うことはなかった。




「……あの時は焦ったよ。まさか屋敷に入ってくるなんて」




彼方は昔の記憶を手繰り寄せた。


奏には一切見せたことのない彼方の一面が表に出ている。


珠樹はこの一面を風戸に来てから知ることになった。


………彼方の非情さを。


二人の両親を殺したのは確かに彼方ではない。


だが、彼方が屋敷に入った時にはまだ二人は生きていた。


要はそういう事だ。




「ゆっくりお休み。僕の可愛い可愛い奏。君が再び忘れるまで」




奏の額にそっと口付けた。


その瞳は炎の色が映っているせいか、紅く輝いていた。



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