誠-巡る時、幕末の鐘-
「帰るから奏の荷物の支度をしてきて」
「……………」
「鷹??」
「ミエ様、いいですよ。自分の支度ぐらいできますから」
「そう??」
「えぇ、では失礼します」
奏は立ち上がり、広間を出ていった。
みんなは言葉が出なかった。
言いたいことは山程あるはずなのに。
「…………」
鷹はそれを黙って見ていた。
ずっと奏につけられていたのだ。
奏が土方達と一緒に作り上げてきた思い出の大半を知っている。
人間嫌いのはずの奏が命令を無視してまで今まで共にいた彼らのことも。
だから鷹は奏の支度を手伝うことができなかった。
「たかぁ〜」
澪ちゃんが鷹を呼んだ。
澪ちゃんも短いなりにみんなのことをよく見ていたのだろう。
子供の方がこういうことには敏感だ。
いつもなら飛びついていくはずのミエの伸ばされた手にも、まったくとろうとしない。
かえって土方の体にぴたっと張りつくようにしている。