誠-巡る時、幕末の鐘-
―――市中
奏が屯所へ引き返した道のさらに三本奥の路地裏に、小さな影が横たわっていた。
雪の白に鮮やかな紅い色が、まるで華を散らしたように映えている。
「これは………」
「背から腹に……むごい」
奏は物言わなくなった、桜花“だった”モノの横に無言でひざまずいた。
地面に積もった雪の冷たさが、嫌でもこれは現実だと思い知らしめていた。
「…このご老人が全て目撃したそうです」
離れた所で山崎が土方の元に、一人の杖をついた老人を連れてきた。
老人の目は奏に向けられていた。
「………あの子の猫かい??」
「あぁ」
「長州の侍達が刀を新調したらしくてな。それの試し切りにって。……目の前にいたその猫を」
老人は事のあらましをつぶさに語り出した。
時折、痛ましげに顔を伏せた。